ROAD TO CHANGE #5 予告編制作篇 バカ・ザ・バッカ池ノ辺社長

シンクレア・ウィリアム監督:シンクレア・ウィリアムです、高校1年生です。よろしくお願いいたします。(以下:シ)

池ノ辺直子社長:バカ・ザ・バッカの代表、池ノ辺直子です。よろしくお願いいたします。
バカ・ザ・バッカは、映画の予告編などを作っている会社です。
そしてここ(対談を行っている場所)は、バカ・ザ・バッカが運営しているCafé WASUGAZEN です。大きな画面では、最新の予告編が50本以上流れていて、チラシも置いています。お客様には予告編を楽しんでもらって、おいしいごはんを食べて、劇場に行ってもらいたいなと思っています。更にここは社食にもなっています。忙しく仕事をしているスタッフが多いので、ここでごはんを食べて、健康に仕事をやってもらおうと思っています。お米は玄米か雑穀米しか食べられないです、ここ(笑)東京で撮影の時はぜひきてください!(以下:池)

シ:はい!行きます。

池:バカ・ザ・バッカは映画の予告編を作っている会社です。最近(2020年当時)だと『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争2021』、『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』、『ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~』、『罪の声』などの予告編を作っています。

シ:なるほど…。制作期間など詳しく聞きたいです。

池:邦画の場合は、本編が完成していなくても作る場合が多いです。おそらく半数以上そうですね。
洋画に関しては、まだ完成してないものもあるけど、基本的に本編をみせていただいて、予告を作る、というようなケースが多いです。クライアントさんとああでもない、こうでもないと言いながら、短くても1ヶ月くらいはかけながら、1作品を作る感じです。
アニメだと、絵コンテからカットを選び、台本からセリフを選び、それから作画を待つのでもっともっと時間がかかりますね。作品によっては1年以上かけて色々なものを作ることもあります。

シ:なるほど…、

池:予告編は英語でトレーラーというのは知っていますよね。
トレーラーって、工事現場で土をかきだす機械で、語源は人を集める、集客するという意味。それでトレーラーっていうんですね。本編とは別に人を集めるために、「面白そうでしょ?」って作るのがトレーラーなんです。
なので、基本的に私たちがやっているのは、作品があって、それをどうやってお客様にみてもらうか、ということです。そうすると、本編と予告編が全然違うんですけど、ということになったりするんです(笑)

シ:僕はそれが逆に楽しかったりして(笑)それが予告編の魅力の一つだったりすると思います。

池:お金を出して劇場に来てくださるお客様をどれだけ掴めるか、という作り方をしているので、嘘はついていないけど、宣伝方針によって切り取る角度や表現の仕方を変えたりすることはすごくあると思うんです。
 
例えば、ちょっとしか出ていない俳優がいても、すごく印象付けちゃう、とかね(笑)
申し訳ないです、裏側を言っちゃいました。(笑)インパクトがあって、みに行きたいと思ってもらえるものを作ることが私たちの仕事だったりするわけ。これは今も昔も変わっていないですね。
予告編を作るにあたって、リサーチもするんですよ。
この映画は誰が人気で、どういう人達がおもしろそうだと思っているのか。
昔は、宣伝プロデューサーがこういう形で売っていきましょう、と決めるのが主流だったんですが、今は、この作品をどう売ったらいいのかこれをみてどうでしたか、というアンケートを取ったりもしています。評価が高い要素があればそれを中心に売っていこうと決めたりとか。
そういうリサーチを取り入れながら、編集をしたり、予告編を作っています。
でもやっぱりディレクターは、自分の感性を豊かにすることで、このカットはこうした方がいいなとか、ディレクションしているんですね。だから、同じ素材の中でリサーチの結果や宣伝方針に基づいて作っていっても、私が作ったものと、鈴木さん、佐藤さんが作ったものは全然違うものになるんです。
それはやっぱり、作り手の想いとか、編集技とか、どこをメインにもっていったほうがいいと考えるかによる違いで。
なので、バカ・ザ・バッカでもよくコンペとかしています。5~6人のディレクターに作ってみてもらい、その中で選ばれた人に正式にディレクションしてもらおう、とか。その人の感性を必要として、作られていくんですね。それは本編も一緒だと思います。これから、撮影が始まると思うので、それまでいっぱい勉強してください。

シ:頑張ります!

池:普通ね、本編の監督は予告編は作らないです。
なぜかというと、本編の監督は90分~2時間の作品を作っているでしょ。そうすると想いがすごい強くなるの。ここのカットを残したい、このセリフを入れたい、とか思うじゃない。何年も時間をかけて、脚本を書いて撮影して編集したら、自分の子供みたいで、この部分を強調しよう!!とかなるじゃない…。
そこで、なんで私たち予告編制作会社があるかという話しに繋がるんだけど、昔は本編の助監督が予告を作っていたの。でもあるところから、映画を売るには第三者で広告展開をできる人に任せようという流れになってうちみたいな会社ができたんですね。
本編は本編ですごく大事な映画だから、それはひとつのいいものとして作ってほしいんですけど、予告編は広告なので、本編をみんなにみてもらうためのものを、全然違う角度で作らないといけない。撮影が大変だったとか、CGにすごくお金と時間がかかったとかはみているひとには関係ないことなの。良い90秒とか60秒を作るために、私たちがいます。

シ:ありがとうございます。よろしくお願いいたします。

池:だけど大変なのは、すごくいい映画をやるとき。感動した映画は、涙ボロボロになって入り込んでしまって。そうすると宣伝的な目で見られなくなっちゃって、すごく難しい。一歩引かないと予告編はできなかったりするので。

シ:予告を作るにあたって、脚本をかいていて、このシーンが売り!みたいになるものが欲しいなと思っているのですが…そのあたりアドバイスいただけないでしょうか。

池:今から作るのは予告編じゃなくて、本編なんでしょ?そしたら、考えなくていいんじゃない?本編がとってもいいものができたら、そこを引き出すのは、私たちですから。
監督がいいなと思っている部分でも、こちらは万人受けするようなものを作るので、その部分を取らないこともあるんです。だから、ここのカーテンが揺れるところに感情が動いて…とか撮ったとしても、私たちが全然面白くないわ、と思うかもしれない。それよりも、黒板を見ているその瞳が素敵!ってなるかもしれないじゃない、そしたら、それを中心にした予告を作るので…。気にしないで、いい本編を作ってください。

シ:了解です!(笑)

池:本編をいいものにしてもらえたら、これとこれとこれを引っ張ってきて、とっても盛り上がって、エモーショナルな、日本人が大好きな予告編に私たちが作り上げます。

シ:わかりました!ありがとうございます。続いて海外の予告編と日本の予告編の違いについて、教えて下さい。

池:ハリウッドにも、映画の予告編を専門に作る会社があるんです。ハリウッド映画で予告編を作っている人たちって、編集技がすごくて、アクションがすごく上手。全くちがうカットから、別カットを持ってきて編集し、ある程度のストーリーを作るのが上手で、音の付け方もすごく上手なんですね。
一方で日本人は、感動する、エモーショナルな作りにするのがすごく上手なんです。
国民性もあるかもしれないけど、ハリウッドの予告編制作ディレクターが、日本人向けに作った予告編をみたら、ワンカットが長くて退屈だったのね。邦画を私たちが作るときって、ある程度盛り上がって、心に響くようなところにもっていって、そのあと後半に続く、みたいな。すごくエモーショナルに作るのが上手なの。
でも、ハリウッドの予告編のディレクターみたいなうまいカット繋ぎは、なかなかできない。
あとは、洋画の予告を日本で作る場合、セリフを日本語でいれないといけないじゃないですか。そこで英語だと意味がわかるけど、日本語にすると、うまく伝えられない…というところもでてきたりします。
編集のときに、ハリウッドの予告編をみると勉強になりますよ。カットの入れ方とか編集技とか。

シ:僕も海外の予告編とかみるときに、全く関係のない別のセリフを持ってきて、会話が成立しているのをみて、すごいなと思うことがあります。予告編をみながら、このシーンはだいだいここらへんだろうなと想像しながらみるんですが、ハリウッドの『キングスマン』という映画は全く外れていて(笑)
海外の予告編って日本の予告編とはまったく違ったおもしろさがあったりするなと思います。

池:ほんと勉強になります。

シ:日本の予告編は、テロップの使い方とか、曲での盛り上げ方とかすごいな、と思っていて…。GEMSTONEオーディションに出品したゴジラの予告編をつくるときは、日本の予告編を参考にしました。

池:なるほど…いっぱい勉強していますもんね。音楽の使い方でいくと、いいセリフを頂点に持ってきて、そこに合わせて盛り上げると、セリフを10倍にも膨らませて伝えることができたりする。そういう効果は予告編で使えたりします。
本編は、すごく長いから、ストーリーを追って、ひとつのものを作っていくけど、予告編はそれを、きゅっと凝縮した中で、ストーリーを作っていかないといけない。
言葉を選ぶことも、ディレクターの感性だったりするので、脚本を読んだり、ラッシュを観終わったあとに何が残っているのか、一度考えます。それをやっぱり、伝えたいなと思いながら予告編を作るんですね。
 
ある大監督が言った言葉によると、私たちの仕事って、何十時間も撮影したOKカットを使って、3分、90秒の映像を作る、すごいことだよね、って(笑)
監督が何時間も何十時間もかけて撮ったものからOKカットを抜いて、2時間ものになって、そこからまたチョイスして、映像を作るってすごくないですか?
そういう仕事をさせてもらえているんだなって今でも思っています。
NGカットなんてないんだから。逆にOKカットを私たちがNGにしちゃうんだから。(笑)
そういう意味ではすごいことですよね。

シ:予告編をつくる上で大事なことってなんですか?

池:3つあると思います。1つ目は、体力。病気なんかしていたら大変でしょ?
みんなに迷惑をかけちゃう。シンクレア君も風邪をひかないで、遅くまで撮影になってもふらふらしないで元気にやってね。
 
2つ目は、映画が大好きなこと。映画を作っていると、何百回と直しの連絡が来るわけですよ。何百回はないか(笑)Aタイプ~Zタイプまで直して、またAに戻るなんてことするわけですよ。
途中でやっぱりめげるけど、映画が好きだからやろうって思うんです。そういう意味で映画が好きなのは大切なことだと思っています。
そして、その2つだけじゃ絶対だめで、3つ目は知恵。自分の引き出しにいろんなものが詰まっていることです。
引き出しをいっぱいつくって、アンテナを立てて勉強していくことだと思うんです。
シンクレア君はいま、勉強の最中だから、いっぱい勉強してください。勉強してきたことは、今後絶対に糧になるので。そして映画をみたり、音楽をきいたり、そういうことで、心を豊かにしてください。それが大きくなって仕事をする時に、財産になります。
そして、作品を作るうえで、奥行きのあるものになります。
とってもこれからが楽しみです。
私がもっと若いころにそれを言われていたら、もっと勉強したのになあと思うよ。(笑)
そういう意味では、いっぱい勉強して、わからないことは大人に聞いてもいいし、もっと勉強してもいいし…。映画をたくさんみて、心を豊かにして、いい作品を作ってください。
楽しみにしています。

シ:ありがとうございます。がんばります。