ROAD TO CHANGE #4 映画音楽篇 音楽プロデューサーYaffle
シンクレア・ウィリアム監督:よろしくお願いします。お話しできること、とても興奮しています…。音楽のプロデュースって、具体的にどんなことをしているんですか?(以下:シ)
Yaffle:音楽のプロデュースね…。正直言ったもん勝ちみたいなところもあるんだけどね(笑)(笑)映画でいえば、脚本と主演みたいなものだね。(アーティストが主演と脚本だとしたらプロデューサーは監督みたいのもの)要はシンガーソングライターがいて、歌をやりたい、じゃあそこ以外をどうするのか、具体に落とし込む作業がプロデュース。
いわゆるアレンジというところで、歌以外をどうするのか決めたり、関わるスタッフ、バンドメンバーとか、こういう音楽だったら、このスタジオがいいからおさえよう、とかを決める。あとクリエイティブに近い方もやってるね。
このメロディーで歌いたかったら、こっちのほうがいいんじゃない?とアーティストと話したりもしていて、歌以外の部分もやるってかんじですかね。(以下:Y)
シ:ありがとうございます。
Y:僕の認識でいくと、音楽は好きだけど、ミュージシャンとして歌う気はないからどうしようってなったときに、こういう形に落ち着いているって感じ。僕はプロデューサーになりたいと思ってプロデューサーになったわけではなくて、そういう風に説明した方がわかりやすいからそう名乗っているだけなんです…。(笑)
いつも僕はコラボレーションだと思っていて、歌がうまい人と曲つくったら楽しいかなって感じで(笑)そんな感じですね(笑)
シ:ありがとうございます。Yaffleさんがつくられる音楽って、音がすごくかっこいいなと思っていて、音のこだわりなどあれば、聞きたいです。
Y:いろいろあるんですけど、一つは、空間表現ですかね。
実は人間って音で部屋の大きさとか、自分がいまどこらへんにいるかとか、判断しているんですよね。目を閉じていても、コンクリートの壁だなあとか、風呂場っぽいな、とかあるじゃないですか。映画でも、声の処理だけで、風呂場っぽくするとか、電話口の声だったなあとか。
みなさんも言語化できないけれど、習慣的に今自分がどこらへんにいるかとかを、目じゃなくて音で判断しているんですよ。だから僕は音楽で、どこにいるかを錯覚させる気持ちでいます。なので、ありえない空間表現とかも好きで。(笑)
たとえば、時間が逆になっているありえない空間とか、いきなり落ちちゃった感覚とか、ポップスの文脈だけど、そうゆうのを中に入れていって、聴いている人が新しい感覚というか、普段会得できない感覚になってくれたら、おもしろいなと、そんなことを普段考えたりしています。
シ:そういう見方で音楽を聴いたことがなかったので、おもしろいです。今度Yaffleさんの音楽を、目をつぶって聞いてみます。
Y:ありがとうございます。(笑)(笑)
シ:Yaffleさんって作詞とかしな…
Y:僕作詞しないんですよ。
シ:そうなんですね!!英語の曲と、日本語の曲、どちらも担当されていると思うのですが、それぞれの音の響きや違いなどはあるんでしょうか?
Y:それはめちゃくちゃありますね。英語はやっぱり子音が強いので、同じ音を立てても、高く聞こえるというか、立ち上がりが早かったりとかしていて。他にも、イタリア語やフランス語、中国語の曲とかもやるので…みんないろいろ違っておもしろいんですよ。「曲があって、歌がある」というより、「歌いたいことがあって、曲ができる」だと思うと、言語によって、行きやすい音程とかメロディーとかあるんですよね。英語だったら気持ちいいけど、日本語だったら合わないとか。逆に英語のタイミングだとダサく聞こえるけど、日本語だとはまるとか、そういうのはいつも考えていますね。常に新しいこと、おもしろいことをやりたいと思っています。
自分でも日本語をしゃべっているときと、英語をしゃべっているときは人格が変わるし、言葉だけでも変わるなと思いますね。
シ:Yaffleさんが担当されたフランス語の曲と日本語の曲は、全く雰囲気が違うなと思っていました。
Y:フランス語の曲とかは、フランス人から英訳をもらうんです。フランス語だけだとどんな歌詞をもらったかわからないので(笑)
面白かったのが「ステーキみたいに僕を焼いてくれ」って、あって、どんな歌詞だよって(笑)
それこそ慣用句とかはおもしろいですよね(笑)(笑)こんな風にこれを表現するのかと(笑)
シ:ありがとうございます。アイデアとかって、どうやって出すのですか?出るものなのか、またどこからくるのか、とかってありますか?
Y:人によるのかな。僕は天啓みたいに、散歩していたら空から神様が…みたいなタイプではなくて、割と書こう!と思わないと書けないんです。
最近思うのが、0から1は、わさびのチューブや、歯磨き粉みたいに、押し出したものが始点で。その後の1~2くらいが結構大事で、0~1まではそんな重要じゃないと思ってるんだよね。1~2が結構大事で、そこがつまらないとつまらないものになっちゃう気がしています。そこを自分でテストとかいろいろやってみて、偶然おもしろくなったな、とか、自分のコントロール外のところで、やってみるっていうのがコラボレーションっぽくて(笑)(笑)アクシデントに頼る。
自分がコントロールしていないところで起きた何かっていうのが2になって、2~10 まではスキルとか、今までの積み重ねのテクニックとかになると思っています。2~10まではみんなやればできる、クオリティの問題になるので(笑)
シンクレアさんはどうなんですか?アイデアとか…
シ:アイデア…。僕は好きな映画を見て、これと同じことをやりたいなっていうのがあって…。でも、それをまんまやったら、怒られるしパクリなので、他の作品と混ぜてバレないようにしています(笑)(笑)
それをやっているうちに、見たことないものができたぞ、ってたまにおもしろいことになると、作品につなげていきます。
今回の『チェンジ』も僕が好きなニセコイって漫画で、教室内で殺し屋の転校生が来て、主人公を撃ち殺そうとする。
Y:懐かしい…ニセコイ…
シ:その無茶苦茶な世界が、次の話になると、元の世界に戻るじゃないですか。(笑)
それが実写化されたときに、それを映像でわりとそのままやっていて、友達には「俺実写化嫌なんだ~」とか言ってたんですけど、あの雰囲気が意外と好きで(笑)小学生の時に、教室の中でバトル起こんねえかなって思っていたことが実写になった気がして…。
東宝さんと企画を作れるなら、そんなことがしたいな、ニセコイっぽいものがしたいなっていうのが先にありました。そこから僕の好きな探偵要素を足して、席替えというしょぼいものをスケールでかく撮ろうと。探偵ものの小さな事件をきっかけに、実は裏で大きな出来事が動いていたっていうのが、意外とマッチするかなと。その組み合わせは意外とみていないなと思い、できました。
Y:なるほど。めちゃくちゃ面白いです(笑)
最後のオチは、探偵の大どんでん返し…2次元的な世界を3次元に落とすときに、あえて翻訳しないでドーンと3次元でやってみて、そこに出てくるナンセンスな歪みたいなものも出していくっていうとこにおもしろさがあるんじゃないかってことですよね。
シ:はい。そうです。
Y:へ~面白いです。(笑)(笑)
シ:ありがとうございます。(笑)(笑)映画の劇伴について、お聞きしてもよろしいでしょうか。昨年、映画『キャラクター』を観て、おもしろいなって思っていました。めちゃくちゃかっこいいけどちょっと不安さがあって、すごくいいなと思ったんです。
『キャラクター』の劇伴はどうやって作られたのですか?
Y:監督から初めに言われたのが、「始まったかどうかわからない感じで始まって、終わったかどうかわからない感じでやってほしい」って言われて(笑)
あ~なるほどなって(笑)先に何も(譜面を)書かないで録音したんです。
楽器の方々をスタジオに集めて、とりあえずいろんなエリアで人を不安にさせたり不快にさせたりすることを、ひたすら録りまくって、それを持ち帰って曲にしました。
つまり素材から曲にしたっていう感じですね。あとは、殺人鬼演じる深瀬さんを、暗黒のヤベー奴に引っ張ってほしいっていうのもあって…。
「もうちょっとここを強調したい」とか「不安だから音楽で違う方向に連れていってほしい」とか、監督がどう考えているのか、音楽で出すのが劇伴の役目かなと思っています。
さらに躍動感が欲しいとか、もっとこの人を怖くしてほしいとか、『キャラクター』ではただひたすら不快にさせることをやりました(笑)(笑)
世界観を壊さない範囲で、ピアノのチューニングをずらしていくと、聞いたことがない音になって。ピッチが安定しないと、人間はその音を知らないから不安になっていくんですよ。
これまでの現代音楽的に劇伴の歴史があって、それを2020年のテクノロジーでやると、おもしろいんじゃないかと思って、やったのがこの映画でした。
シ:殺人鬼・両角が途中で部屋に戻ってきて、うずくまるシーンで、人の声なのか、何かわからないんですが、そのシーンがすごい印象に残っています。
Y:おお、そうです(笑)(笑)あれ人の声なんです。人間の声ってぐろいっすよね、(笑)(笑)聞きなれているので、それが変だと、余計に不安になるんですよ。
シ:なんか、変な重なり方していて(笑)(笑)
Y:不快の研究っておもしろいですよね。快感に感じる研究は進んでいて、メソッドもあるけど、人がなんで不快になるかは、まだ耕しがいがあると思うんですよ(笑)(笑)
おもしろいかもしれないですね(笑)(笑)
シ:『キャラクター』とは対照で、『地獄の花園』のオープニングも担当されていましたよね…。東宝さんが『キャラクター』で、ワーナーさんが『地獄の花園』という対照的な作品で、
すごいなと思って…。あの『地獄の花園』のオープニングはどんな風に作られたのですか?
Y:あれは監督から先に映像のイメージをもらいました。1分くらいタイトル映像が入るっていう話で、こういう映像にしたいとか、ナンセンス系じゃないですか、OLで不良で喧嘩するっていう。(笑)
そこをチープにしちゃうと、ダサいかなとも思い。シリアスにやっている方が、ギャグっぽくて、面白いじゃないですか(笑)
真面目にやっているからその状況の不条理がおもしろいのであって、いきなりあそこでかっこいい、スタイリッシュな感じでオープニングでながれることで、その後の展開のフリになればいいなと。あとは、女性が主人公なので、女性の声を入れたりとかして作った感じですね。
シ:なるほど、ありがとうございます。オープニングを観て、「おおー!」ってなりました。あの映画ってOLがヤンキーをやっているっていう面白さ以外に、関係ないギャグとかあんま出さないじゃないですか。それでも最後までなぜかもつ映画で、そのオープニングがあれだったのは予想外で、とても好きです。
Y:ありがとうございます。(笑)
シ:最後に一つだけ、映画の音楽を作る上で、一番大切にしていることはなんですか?
Y:言い方が難しいですけど、映画の邪魔をしないってことですかね。
映画はストーリーテリングが全てで、音楽がいいかどうかっていうのは、その後のことだと思っています。要は、音楽がバーンと使われるから、いい曲にしてやろう、とかサントラだけ聴いたらめっちゃいい曲だとしても、それが映画的にはまらなかったら意味がないと思うんです。
音楽って、監督が言いたいことがすっと入ってくるかに関わってくるじゃないですか。
クオリティに関して、音楽がいいことに振り切るのではなくて、この映画が面白いストーリーテリングで進んでいくために、どんな音楽が良くて、新しくて、よりスマートなのかってことを意識する…。
音楽家って基本的に曲だけ聴いて、いい!ってものを作りたいんですよ(笑)。
だけどそれをちゃんと映画の文脈に合わせていく、っていうのが一番、映画音楽をやるのに大事なことなのかなと思います。
シ:たしかに…サントラを聴きたい!って思うのものって、シーンが印象的で…。逆にシーンはあまりすきじゃないけどサントラだけ聴こうって、いう風にはならないかなと(笑)今日は、めちゃめちゃおもしろい話が聞けました。ありがとうございます!
Y:良かったです(笑)(笑)また直接お会いできる機会があったら、ぜひお会いしたいです。