ROAD TO CHANGE #3 実写映画監督篇 月川翔監督

シンクレア・ウィリアム監督:お忙しいところありがとうございます。よろしくお願いします!(以下:シ)

月川翔監督:とんでもないです。こちらこそよろしくお願いします。
(オーディション投稿作の)ゴジラの予告編、拝見しました。めちゃくちゃ面白かったです。(以下:月)

シ:ありがとうございます!

月:ワクワクしますね。僕が映画を作り始めたのは、大学生の頃だったんですけど、そのころの作りたくてしょうがなかった気持ちを思い出しました。全部ひとりでやったんですか?

シ:そうです!

月:CGも自分でしてるんですか?

シ:はい。

月:すごいなあ、中学生の時にあんなことをもうやっているわけですもんね…。なんにでもなれそうだなあと思って観ていました(笑)。テロップのセンスもいいし…。音楽はどうしたんですか?

シ:「GarageBand」でフリー素材を組み合わせて作りました。

月:すごい時代だなあ。カメラは何で撮ったんですか?

シ:家のビデオカメラとスマホで撮りました。自分でカメラを動かすことができなかったので加工とかでうまく動いているように見せたり…。

月:うんうん、固定の絵を編集ソフトで動かしたり…なるほど。これは撮り始めて何本目くらいの作品なんですか?

シ:ずっと趣味で友達と作っていたので…。多分20本目くらいだと思います。

月:すごいなあ。それだけ撮ってもまだ初期衝動があふれる感じとか、フレッシュでいいですね…。やっぱり選ばれた人だなあという感じがしました。お話をするのすごい楽しみにしてたんです。脚本もざっと読んで、席替えが学生にとっては一大事というアイデアがすごく面白くて…(笑)。ロバート・ロドリゲスの映画って観たことありますか?

シ:『スパイキッズ』と『シン・シティ2』は観たことあります。

月:彼の撮った『エル・マリアッチ』は日本円にすると予算5,60万で作ったインディペンデント映画で、いい参考になると思います。殺し屋のギターケースと、流しの歌手のギターケースが入れ替わっちゃって、騒動になっていく話なんですが、そのギターケースがマシンガンになったりするので、(シンクレアさんの脚本に出てきた)筆箱型の銃とかガジェット的にも参考になるかなと思いました。オススメです(笑)

シ:ありがとうございます!観てみます!月川監督作品を色々観ていて、メインタイトルの出し方が毎回違っておもしろいなあと思っています。意識してつくられているポイントを教えていただきたいです。

月:作品ごとですね…。例えば『君の膵臓をたべたい』では、印象的な窓の光に溶け込むようなタイトルの出し方にしたいと思って作りました。
『センセイ君主』のときは、アニメーションのキャラクターも登場するので空間に浮かぶ文字にしたいと思いました。その空間にあたかもキャラクターが登場してきたような立体感が欲しい!というような感じで決めています。

シ:ありがとうございます。月川監督の作品には、非現実的でぶっ飛んだ演出が出てくると思うのですが、それはなぜなんでしょうか?例えば『センセイ君主』の告白シーンで噴水がドバーンと吹き上がったり、『となりの怪物くん』のものすごく高くジャンプするところやラストのキスシーンだったり。普通だったら怖くてできなさそうな演出で、おもしろいなあと思っていたんです。

月:なるほど(笑)。『センセイ君主』に関しては、台本に書いてあったかもしれないです。アニメーションのキャラクターが出ることも書いてあったし、噴水はその場にあったから活かそう!となった気も…。女の子の妄想を爆発させてく狙いでアニメーションを使っていたので、そのテンションで行きましょう!ということだったと思います。
『となりの怪物くん』の時には、菅田くんのキャラクターが非現実的なキャラクターだったので、前半戦から「フィクションラインはここですよ」というのを提示しなきゃいけないと思っていました。3階から飛び降りてそのまま不良たちと戦ってぶん投げる、というようなことを最初にやっておけば、この作品のフィクションラインはここですよ、と示せると思いました。ラストのキスシーンは、他にリアリティのあるキスシーンをやっているので、さらにその先に跳躍する意味で、「この二人にはこういう世界に見えてますよ」ということを意識しました。ただキスをするというだけで(ストーリーを)終われるかな?と思ったので、見終わった後の爽快感や、もう一押しがほしいなあと考えて、飛躍させていった感じかな(笑)。

シ:なるほど…。ありがとうございます。
月川監督は、ファーストカットへのこだわりとかってありますか?

月:慎重に決めています。『センセイ君主』は、電車で(主人公の)あゆはが好きな男の人を見てるシーンですね。『君の膵臓をたべたい』は桜が印象的な作品だったから、教室の外からのカットですね。校庭の桜がないところにわざわざ桜をおいて撮りました。やっぱり作品にとって象徴的になるようにしようと考えて撮っているつもりです。

シ:『センセイ君主』もそうですけど、とても魅力的なキャラクターがいっぱい出てくる作品で、役者さんの演技とかはどのように演出しているのでしょうか?

月:まずは俳優さんと会って、「台本読んで、この役柄をどうとらえましたか?」というディスカッションをすることが多いです。それで「おおよそこういうことを求めているキャラクターなんですね」って話をしたら、あとは本番に行くことが多いです。
『センセイ君主』の時は、コメディのトーンをどこまで振り切るかっていうのが難しかったので、そこはみんなで共通意識を持てるように事前のリハーサルを何日もやりました。台本読みをやって、お互いのテンションを確認して、次に実際に動いてみて、トーンをお互いに探るという感じでしたね。
割とここ最近撮っているものだと、新鮮なお芝居を撮りたいものも多くなってきていて。役柄の話だけしたら、あまりテストで決めこまないうちに本番をまわして、新鮮なお芝居を撮ることを楽しみにやっています。自分の想像を超えてほしいなっていう想いと、やりすぎるとだんだん新鮮じゃなくなっていくというのもあって。当然、普通の人生だったら1回しかない瞬間を何回もやることになってしまうから、なるべく少ない数で撮りきれるように工夫していますね。

シ:ありがとうございます。脚本を書かれているときに大事にされていることはありますか?

月:書く時期によって自分が大事にしていることが変わってきているんですが、書き始めたころは、構造を気にしていました。例えば三幕構成で、一幕ではこういうことをセットアップしよう、二幕はこう展開させよう、三幕でこう解決していこう、という感じ。そして一幕と二幕の間に価値観が変わる瞬間を作って、二幕と三幕の間に起死回生の行動を起こす、とか。あとは全体の中間地点、ミッドポイントにもう一度この作品は何に向かっているのかを提示する場面を入れよう、などといったことに気を付けていました。それこそ、いろんな映画を観ては何分にどういうことが起きているのか、Excelにまとめていた時代もありました。
ただ、それがだんだんそれが面白くなくなってきちゃったんですよ。とにかく型に流し込むだけになって、キャラクターを無理やり動かしているという感じになってしまった。

シ:なるほど。

月:本当だったら、キャラクターが「こう動きたい!」と思うように展開できたほうがいいはずなのに、無理やりキャラクターを動かすから演じてもらってもしっくりこない部分がいっぱい出てきちゃうようになってきて。そこからは、キャラクターを先に作って、キャラクターと構図を両方見ながら調整していく、という感じにしました。無理矢理当てはめるよりは、キャラクターがなぜそう行動したくなるのかを中心に考えるようになっていったかな。
才能ある脚本家さんと組む時って、構造が気にならないくらいキャラクターが生きているんですよ。例えば、岡田惠和さんだったり、坂元裕二さんのシナリオを見たときに、これは自分では書けないなって思うぐらいに、キャラクターが面白く、セリフも面白い。そういう作家さんと組む時には全幅の信頼を置いて、演出させていただく、というスタイルになります。
今、全世界に向けて配信の作品を作っていて、チームでつくる面白さにめちゃめちゃはまっています。自分の思うようにはなかなかならないんですが、それぞれ「ここおかしいですね」と複数の人間が確認して作っては壊し、作っては壊し、を繰り返すので、どんどん強いものができていく感じがしています。
目標としているのはどの作品もシナリオが良いピクサーの映画です。なんでこんなにいいのかなと思って、ピクサーのシナリオ作りの本を読んだんです。すると、“最初は面白くなくて当たり前”から出発すると。そこから、いろんな人から意見をもらいながら作る。で、行き詰まったらその作品に直接関わっていない監督とか脚本家とかを集めて、読んでもらって率直に意見をもらう。その意見を採用するかどうかはまた監督たちが決める、という形を何度も繰り返していくから、どんな人が観ても耐えうる物語に磨き上げられていくんだと。
だから僕は今、チームで作るということにハマリだしています…(笑)。
脚本は一人でなんとかしようと思わないでいいかもしれないかな。僕は今、シンクレアさんが一人が作っていることにワクワクしているんだけども、これからいろんな人と組んで、どういう才能を引き出されていくのかということもすごく楽しみにしています。

シ:ありがとうございます。自分の脚本を見せられる人が、親とプロデューサーさんしかいないので、本当に面白いのか考えこんでしまうところとかあって…。

月:うん、本当にいろんな人に読んでもらって、感想をもらうのがいいとも思います。あと、台本から映像を想像して分析して的確に意見を戻せる人も限られている気がして…。台本って読むのが難しいと思います(笑)。
それは例えば小説家とはまた別の能力だと思うから、プロデューサーに読んでもらうのはかなりいいと思います。映像化していくまで一緒に走ってくれる人なので、必ず良くしようと思って意見してくれるので。実際プロデューサーに何か言われた瞬間は色々思うこともあります(笑)。ありますけど、やってみると意外と面白くなる瞬間がある。ディスカッションはしなければいけないけど、一旦試してみるっていうのは価値があると思いますね。そこのキャッチボールは気が遠くなるほどの回数をやるべきだと思います。

シ:ありがとうございます!月川監督作品を観ながら、画面のアスペクト比が横に長いなあと思っていて。映画によって変わっているのですが、なぜですか?

月:基本はカメラマンと相談することが多いですが、どの環境でみられるかによって決めています。
始めのころの劇場作品だと、テレビシリーズから映画化があって、そういう時には16:9の画面で撮られた映像を使用する場合もあるので、それに近いアスペクト比を選択する時期もありました。
 
例えば東宝の映画で、確実にTOHOシネマズで上映します、ってなる場合は、シンプルにシネスコにしよう、というのが基本の考えですね。
だけど、本当に作品によると思います。ウェス・アンダーソン監督の、時代によってアスペクト比を作中で変える…

シ:『グランド・ブダペスト・ホテル』ですよね!

月:そうそう!今ではスマホの画面に合わせて、とかもあると思うし、そこはもう全然自由でいいかなと思っています。
アスペクト比に関してはそういう風に考えていて、あとは例えば、配信の作品をやるとなった時には、iPadで観るとどうなるかとか、スマホで観るとどうなるのかとかを考えます。アスペクト比で入れ込んで見せてもらって、2:1っていう、ビスタとシネスコの間くらいなのが、いろんなデバイスで観るにはちょうどよさそうだなとか、そういうことで選んでいます。
 
あともうひとつ要素として、シネスコのときに、アナモルフィックレンズをシネスコ用に一回圧縮して撮影して広げる、という技術があるんですけど。そのレンズならではのぼけ感が欲しいとなると、そういう選択をするときもあります。
そこはまだ奥が深くて。カメラマンともよく相談して決める、という感じです。

シ:映画を観るときに、できれば画面いっぱいに欲しいなあ…くらいに思っていたので、勉強になりました。
 
『センセイ君主』や『となりの怪物くん』を観たときに、竹内涼真さんのキャラクターがものすごく格好よく映っていて、カットのテンポも良くて。どういう風に演出しているのか気になったのですが、意識していることはありますか?

月:もともと格好いいというのももちろんあるんだけども(笑)。演出としては、ここを一番格好いいカットとして撮るぞ、ということは決めています。そういう時には逆光で作っていて。光を背負ったほうが美しく撮れるという基礎的な技術があるので、女の子を可愛く撮るときにも必ず使っています。
それでいうと、僕は誰視点で進む物語なのかによって、女の子と男の子のどちらを逆光側に立たせるか考えています。例えば、『センセイ君主』だったら主人公の女の子から見て先生がかっこいい、先生を愛でる作品だと思ったので、竹内涼真くんのほうを逆光に立たせてかっこよく見せています。ヒロインが一目惚れするシーンでは、黒板が背景になっていても、無理やりレンズに逆光を当てています。それはキラキラしたショットを撮るぞ、という狙いでやっています。
『君の膵臓をたべたい』だったら、男の子から見た儚い女の子、という距離感で撮るので、浜辺美波さんを窓側に置く、とか。

シ:決めの場面を撮る際には、役者さんにはどういう指示をされるのでしょうか。

月:自然にやってほしいときには、あえてさらっとやるときもあるし、ノせてノせてノせちゃうぞ!という時には、「今からキラキラショット撮るよ!」と言っちゃうときもあるし(笑)。相手のキャラクターや場面のテンションに合わせて、ですかね。
あんまりプレッシャーかかると萎縮してしまう俳優さんだったらしないし、勝負カットを伝えてノせて撮る場合もありますね。

シ:なるほど…。ありがとうございます!
 
作品によって、画面の色合いやトーンが毎回違っているんですが、どうやって決めているんですか?僕は映画『響』の色の使い方がとてもかっこいいなと思っていて。

月:作品のムードに対して、コントラストを決めています。『君の膵臓をたべたい』だったら柔らかいトーンにして、コントラストを落としていくし、『君は月夜に光り輝く』も同じ感じでやっていて。『響』ではもうちょっと硬くしようかなと。暴力的な場面が出てきたりするから、そこでは画面に赤いものを入れる、それ以外は反対色のグリーンでいきましょう、などコンセプトを決めていきました。ここぞ、という場面が効くように色を定義しておくというか。
あとは(主人公の)響の才能に皆が心を動かされる場面では、背景に必ず動く光を入れておくこともしました。コピー機の光とか、木漏れ日が壁にゆらゆら揺れているとか、そういうことを画面の中で引き起こしています。多少、超現実的な光であろうと、狙いで光やトーンを決めていました。

シ:ラスト、エンドロールの文字が紫色みたいな…

月:はい、マゼンタっぽい色で。

シ:あれがとても印象的だったんですけど、どういう風に決まったんですか。

月: 新たな世界に行くよ、というシーンなので、色をがらっと変えたくて。グリーンに対して反対のピンク系の色にしたい、空間としてもオレンジに、とにかく次のステージに行くことを伝えるためにピンクの色を付けたかな。
 
理屈ではそう言っているけど、本当は『ドライブ』のテロップがめちゃめちゃかっこいいと思ったのもあって…

シ:あーーー!!はいはい!

月:いつかやりたいなと思っていたのが、本当の理由です(笑)。
本当はあれやりたいなって。あの夜景と音楽で、かっこいいのにしたいなっていう、シンプルな理由(笑)。

シ:僕も『ドライブ』みていて、すごくテンション上がりました!

月:めちゃめちゃかっこいいよね!?(笑)
サントラもかっこいいし…

シ:まったく予想外の雰囲気の曲が流れて、スゲーって思いました(笑)。

月:完全にあの影響です(笑)。

シ:でも確かに『ドライブ』も暴力的な映画なので、『響』の雰囲気にも合っているなと思いました。

月:ありがとうございます(笑)。

シ:撮影をする前に、絵コンテなどは描くのでしょうか。

月:僕は基本的には描かないです。お芝居には必要ないなと思っていて、僕が準備するのは、台本上「ここからここまでを一連で撮りたい」とか「ここからここまでは一連だけど、ここは必ずカットバックが入る」とかいう映像の文脈です。それに合わせて、人をどう動かすかを考えます。
例えば、AさんとBさんがずっと座って喋っているツーショットとカットバックだけっていうのはすごくつまらないなと思っていて。例えばAさんがしゃべりながら動いていて、カメラがそのAさんをフォローしていって、Bさんがしゃべるときに、すれ違ったりしてBさんを映すショットに移行したり。またAさんが画面に入ってきて、何かを置いたらその小道具に向かってパンダウンするとか。
一連で撮れるもので、Aさんを見せたい、Bさんを見せたい、小道具を見せたい、っていう映像の文脈だったら、そう撮れるように配置する。
そこで、無理がないような動きを考えたりします。僕はそれが演出だと思ってやっていて、そこに絵コンテはあまり必要ないというか、カメラマンに伝えればわかることなので。あとはスタッフに共有できるように部屋の平面図を用意して、引っ越しとかでみるような図に机の配置や、人物はこう動く、カメラはこう動くつもりだよ、ということを書いておけば、基本的には伝わる。ただCGが絡む時には「絵コンテをください」と言われることがあるので、その時には絵コンテを作ります。大掛かりな準備がなされるので、間違いがないように絵コンテを作る、という感じです。
僕も自主映画を作っている時期には、ひたすら絵コンテを作っていたこともあったんですけど、現場で生まれるものもおもろいなあと思ったり、絵コンテを書くとマンガのコマのように考えちゃうな、と思って。せっかくモーションピクチャー(動画)なのに、動きが伝わらないなと感じるようになってきたんです。画面の中で上手に人が動いているほうが僕は感動するので、その演出を目指すようになってからはあまり絵コンテを必要としなくなっています。

シ:MVも撮っていらっしゃるじゃないですか。映画をつくる時と違って、より色々な表現も使えるようと思うのですが、そういうときはどういう演出をされているのでしょうか。

月:曲ありきかなと思っていて。この曲が表現しようとしていうのは、どういうものなんだ、から出発して…。「楽曲をどういう表現で打ち出したいですか」ということをミュージシャンサイドにも確認するし、「どういう宣伝意図ですか」ということも確認して、作っていくことが多いですね。企画を募集します!みたいなアイデア勝負の時には、「こういうアイデア試してみようかな」となるんですけど、オファーされて作る場合には、「曲をつくって売りたい」という人とのディスカッションから僕は考えています。
最近はストーリーものでお願いしますと言われることが多いので、楽曲の物語が何かを考えます。歌詞にピッタリ合いすぎてもカラオケビデオみたいになって面白くないので、曲を分解して、テーマは一言でいうとこれだな、というところまで抽出してから物語をつくる。変換を行って、楽曲のイメージに寄り添っていくのが僕のMVの作り方です。

シ:同じ音楽に関することなんですが、映画のサントラって撮影前にどれくらいイメージして作るのでしょうか。

月:映像を撮り終わったあとに作ってもらうことが圧倒的に多いので、撮影前に音楽家さんと打ち合わせはしますが、具体的な音楽までは聞かないことが多いです。もちろん音楽家さんによって、「例えばどんなムードの曲?」と聞きたい人と聞きたくない人、それぞれいらっしゃるので、僕は音楽家さんに合わせて判断します。あとはジャンルだけ決めることもあります。ミニマルミュージックにしたいです、とか反復する音楽にしてください、とか。
一緒に動く音楽家さんの能力が一番引き出されるのはどういうやり方だろうかと考えながら一緒に作っていきますね。

シ:ありがとうございます。
僕、『センセイ君主』の原作を読んでいて、原作に出てくるギャグって漫画でしかできないと思っていて。でも実写版で、実写だからできる表現に変換していて、とてもいいなと思いました。漫画から実写に変換するにあたって、どうやって演出されているのですか?

月:なるべく「漫画のまんまやらないといけない」と思わないようにしていて。なので原作が持つ本質を突き詰めて、「テーマを抽出して、それを映画にするにはどうしたらいいのか」という思考で作っていく作業かなと思っています。原作をそのままやるんだったら、実写映画でやらなくてもよいのでは??というのはちょっと思うんですよ。漫画と映像は表現の方法も変わるし、連載の見せ方と120分での見せ方は構造が違うので、2時間の中で原作をどうアダプテーションするか、という思考を持つのが最初かなと思います。
もちろん0から作っている原作者さんが一番すごいと思っているので、そこに失礼がないように考えます。なので当然、原作者さんの意見も聞いて、そのうえで作ります。
実写だと嘘っぽく見えてしまうシーンでも、原作者さんが必ずやってほしいという意図を曲げずに実現できると、原作者さんもお客さんも満足してくれる。こういうことの繰り返しが、原作モノの作品だと行われているんです。

シ:ありがとうございます。監督は大人と子どもを描いている作品が多いと思うのですが、どういう風に区別して描いているのでしょうか。

月:あんまり大人と子どもで分けては考えていないですが、大人と子どもで配慮するといえば、年齢差のある恋愛などの時に現実世界も鑑みています。『センセイ君主』では、教師と生徒の恋愛を描くときに、教師が思わせぶりだと共感できないので、とことんドライにしてもらおうと決めました。原作では早い段階で二人が付き合うのですが、映画ではやらないようにしよう、とか。付き合う手前で終わらないと僕はときめけないなと思って、そこまでの話にしました。

シ:僕は『センセイ君主』を観ながら、先生のドライな感じがすごくリアルでいいなあと思っていて。そのあとの流れで、先生の家に行くところにものすごいワクワクして(笑)

月:そうだよな!(笑)

シ:「先生の家に行けるってスゲー!」って、男子もドキドキできる映画だなって思いました。

月:よかった~(笑)めちゃめちゃうれしい。やっぱ家に行くって相当だよなあ(笑)。
作っていくと麻痺してくるんだけど、自分が中学高校くらいで観たらどう思うか考えながらつくっていくので、ちゃんと伝わっていて、僕はうれしいです。(笑)

シ:漫画とは別の、ドライな先生だからこその良さが出ていて、めちゃめちゃ面白かったです。最後に月川監督が映画監督として一番大事にしていることを教えてください。

月:映画を作るときは、やっぱり自分の想像を超えたいと思って、いろんなスタッフ・キャストと組んでいるつもりなので、なるべくみんなの意見を聞きます。そして誰でも発言できるような空気を一番意識しています。どの部署のどの立場の人であっても、必ず意見できる空間かな。「実はこれおかしいと思っていたんですよね」ということを黙っていられるのが一番嫌なので、必ず「クオリティのために必要な提案をしてください」と言っています。どの立場の人でもいい。必ず検討します。
そうすると、到底自分だけでは考えきれなかったところまで辿り着けると思っています。役者さんもそうですけど、必ず意見を言ってもらって、そんな空気や意見を妨げるような人にはチームを出ていってもらう、くらいまで考えます。とにかくみんなが一番意見を言いやすいチームをつくる、ということを一番意識します。

シ:ありがとうございます!ものすごく勉強になりました。

月:よかったです。
今日いろいろ言ったけど、「月川がこう言っていたからこうしなきゃ」とかは全くないから、本当に自由に作っていってもらいたいなと思っています。作品を観て、本当に才能あるなと思ったので、変に流されずに自分が面白いと思うものをつくればいいと思います。ひたすら突き進んでいってほしいなと思います。

シ:ありがとうございます!!!頑張ります!!