ROAD TO CHANGE #2 アニメ監督篇 静野孔文監督
シンクレア・ウィリアム監督:シンクレア・ウィリアムです。高校1年生です。よろしくお願いします。(以下:シ)
静野孔文監督:よろしくお願いします。静野孔文です。(以下:静)
シ:早速ですが、僕は『名探偵コナン 純黒の悪夢』(2016年)が大好きなんです。小学6年生の時に劇場で観て、衝撃を受けました。これまでのコナン映画は「ミステリー」が中心だったと思うのですが、この回は「アクション」がメインになっていて冒頭からスゲーなって思いました。
アバンタイトルの大きいアクションシーンで、コナンが一切出てこないじゃないですか。
静:うんうん。
シ:その代わりに、イケメン2人と美女1人のカーチェイスになっていて、「これ、コナンなのか…」と圧倒されました。さらにそこからメインタイトルまでの流れが、ものすごくかっこよくて…。本当に、衝撃を受けました。
メインタイトルのアレンジや、アクションがメインの構成など、これまでのコナンとはちょっと違ったスタイルだったと思うのですが、意識していた点などありますか?
静:観ていただいてありがとうございます。自分が呼ばれたのが第15弾の『名探偵コナン 沈黙の15分』(2011年)の年で…。プロデューサーさんたちの間では当時から「第20弾で大きな花火を打ち上げよう」という計画があったみたいなんです。でも僕は聞かされていなくて。
劇場版名探偵コナンシリーズの監督を務め始めて4作目の頃に、前年で既に新記録も更新していたので、そろそろ新しい監督さん呼んだ方がいいんじゃないのって話しをしたところ、石山プロデューサーから、どうしても第20弾までやってくれと、頼み込まれて「なんで?」と聞いたんです。そしたら、「第20弾は黒の組織で派手にやりたい」と。
「ミステリーも多少はあるけど、静野さんの得意な分野を全面に出してもらいたい、“新しいコナンを魅せたい”」ということで、ミステリーにこだわらずに、派手に、黒の組織とコナン君をみせました。
あと、「赤井秀一と安室透という人気が出始めているキャラクターたちを全面に打ち出していく」というのも、お願いされていました。もともと、シナリオ上のアバンタイトルはもっと短かったんですが、
赤井秀一と安室透を紹介する作品ならば冒頭であの二人を強烈に印象づけないことには納得がいかなくて、急遽二人を前面に出して、アクションシーンをちょっと足したのがあのアバンタイトルなんです。
出来上がったあとにプロデューサーから、「10分くらいあるのに主役が全然出てこない…
アバンタイトル大丈夫?」と言われたのを覚えています(笑)
更に、冒頭のコナン君を紹介する映像に関しても、
20周年で大きく変えてほしい!と石山プロデューサーが言ってくれて…。
新しいコナン君を見せるために、演出・音楽・テンポ・編集などを大きく変えたのを覚えています。
シ:ありがとうございます。まさか、脚本になかったとは思わなかったので、びっくりしました。最初のアバンタイトルは最高だったので…
静:ありがとうございます。(笑)
どうしても、「昔から続いているアバンタイトルのスタイルを守るべきだ』という力が働いていて、新しい表現・編集、コンピューターグラフィックスとか、そういったものを入れることを恐れているスタッフもいたんですね。入った当時はスタッフも全員年上だったし、中々新しいことができなかったんですけど、4年くらいかけて少しずつそれが叶うようになり、20周年でやっと全て許叶ったかな、という感じですね。
シ:ありがとうございます。ぼくは最近3Dの演出も本格的に使い始めたばかりなのですが、3Dのセルルックと、手書きアニメっぽいCGと、手書きアニメのそれぞれの良さは何だとお考えですか?
静:求められている映像スタイルに合わせて使い分けるべきかなと思います。
コナン君の場合は、どうしてもキャラクターが完全な立体にしづらいシルエットなので、そこから逆算すると、リアルなCGよりもセルルックに近い方がいいかなと思っています。
名探偵コナンシリーズで言うと、第17弾くらいから、それまでの名探偵コナンシリーズのCGチームではなく、自分がコナン作品に関わる前からお付き合いのある北海道のCG会社に入っていただきました。そこから、よりCGを作画となじむような形で取り入れていった感じです。
他の作品では、リアルな描写だったり、立体的にみせることもやっています。最近関わった映画『モンスターストライク』ではコマ数を減らさず、立体描写と滑らかな動きを前面に、手書きのアニメーションには引っ張られないような形で描いています。
シ:ありがとうございます。3DCGのキャラクターって、昔は少し抵抗があったんですが、だんだん手書きとは違う柔らかさがあっていいなあと思うようになってきました。
シ:続いて、アニメって、声優さんとアニメーターの二人三脚みたいな感じだと思うのですが、声優さんを演出する際に意識していることを教えていただきたいです。
静:そうですね、手書きアニメーションの現場だと、細部までこだわることが難しいんです。アニメーターさん、演出家さん、声優さんなどにある程度委ねなければいけない部分があるんですね。
アフレコ用のフィルムがあがってから、意図していた演出とのズレを感じたときなんかはアフレコで声優さんに、いろいろフォローしてもらったりもして…。
「映像的にはこうなっているけれども、声の方でこういう風にフォローしてください」とお願いすることもありますね。
…というのが手書きの場合の話しなのですが、CGだと、チェック工程がいっぱいあって、演技の部分の次は表情づけ、など細かく監督チェックをさせてもらえるので、CGのほうが、今はやりやすいと感じています。
シ:そうなんですね!
静:そうだ、シナリオ読ませてもらいました。
シ:え!!ありがとうございます!
静:すごく面白かったです。すごいなあと思いました。才能が。『名探偵コナン 純黒の悪夢』の話にも通じますけど、アバンタイトルのフリがちゃんと最後まで活かされているなあと思いました。中盤のアクションシーンも、色々こうなるんだろうなあとか想像しながら見せてもらって…。すごくよくできているなあ、と感心し…感心といったら失礼だと思いますけど(笑)
すごいなあと思いました。
シ:ありがとうございます!! アクションシーンがちょっと複雑になっているので、観る側にわかりやすく撮りたいと思っているんです。アクションシーンを撮るうえで、アドバイスなどあったら聞かせていただきたいです。
静:自分はアニメーションディレクターとして、(実写とは)違う入れ方をしているなあと思います。プロデューサー泣かせなところがありますね(笑)
アクションで、面白いことを思いついたらとりあえず、全部ストリーボードにおこしちゃうんですよ。いいアイデアだと思ったら、とにかく全部フィルムで作ってしまって、そこから編集でどうやったらより面白く見せられるかをフィルム上で検証するのですごく手間や予算がかかってしまうんですね。“好きにやっていいよ”と言われて、好きにやっていった結果予算オーバーで怒られたりとか(笑)
でもやっぱり文字だけだと、わかりづらいこともありますもんね。そこは下手な絵でも、書いてスキャンして動かしちゃってから、検証した方がいいのかなあって。今回の『チェンジ』もスケジュールが許す限り、とことんやっちゃった方がいいと思います。
シ:ありがとうございます!テレビで放送するアニメーションと、劇場で公開するアニメーションを演出する上での違いはありますか?
静:そこまでこだわって変えてはいないです。一番こだわるのは、原作があればそれをどう尺の中に収めるか、オリジナルであれば逆にいかに個性を出せるか、という部分です。
やはり無難につくってしまうのが一番よくないと思っているので、監督として選んでいただいたからには個性を出していくのを一番大事だとにしています。
シ:なるほど。ありがとうございます。僕が今作っている『チェンジ』は尺がアニメの1話分くらいなんです。
静:あ、そうなんですね!もうちょっと短いと思っていました。
シ:はい。17分の尺で、観ている人の心をおお!と掴みたいんです。
アニメの第1話で、視聴者の心を掴むために心がけていることはありますか?
静:監督としては、全体を通して、一つのパッケージとして「面白かった」と思われるように設計することを心がけています。なので、“1話だから”とか“最終話だから”というのはすごく嫌で…。全編通して熱量を変えずに取り組むようにしています。
シ:なるほど…。ありがとうございます。どうやって静野監督がアニメーション監督になったのかをお聞かせいただいたいです!
静:(笑)
僕はシンクレア君と同じように、元々は実写の監督になりたいと思ってたんですよ。でもどうやったらなれるのわからなくて。
自分が憧れていたハリウッド映画のようなことは、実写だと莫大な予算をかけないとできないことで、当時日本映画ではあまりつくられていなかったんです。だったらハリウッド映画の監督になればいいや!と思い立ってアメリカに行ったはいいものの、行ったら楽しくて映画に関する努力を全くせずに遊んで帰ってきて…(笑)
その後、日本に帰ってきたときに、TVをつけたらたまたまアニメーションが流れていて、「あ、アニメだったら好きなことできるのか、描いちゃえばいいのか」というところからアニメ会社に入りました。
でも、アニメって思っていたよりも予算的にも、スケジュール的にも制限があると気づいてしまったんです。ディレクターになりたくても、長い下積みを経験しなければいけない風潮もあり、それが嫌で「どうしたらフィルムを作れるか」を考えていくなかで、CGを一人で作っちゃえばディレクターデビューができると思いつきました!(笑)
そこからCGを独学で覚えながら企画書を作りました。当時のアニメは、CGを入れると製作費が高くついたので、「僕にディレクターをやらせればCGはタダですよ」という企画書を書いて、任せてもらったのがディレクターデビューでした。(笑)
独学でCGをやるうちに、海外のハリウッド映画の日本タイトルのプロモーション映像を作る仕事も舞い込むようになって。ハリウッド映画用のPVやBtoBの紹介PVもフルCGで作ったりもしましたね。
シ:すごいですね…ありがとうございます。
静:ところで『チェンジ』はどうやって撮るんですか?沖縄からzoomでディレクション?(笑)そんなわけないか(笑)シンクレア組は、TOHOスタジオさんとご一緒するんですか?
シ:そうです!
静:そこはすごい重要ですよね。初めていろんな人の力を借りて、ディレクションするってむちゃくちゃ大変だと思うんですよ。特に、アニメーションだと気に入らなかったら最終的に自分でCGを作ったり描いたらいいんですけど…。実写だと人にお願いして、自分の描こうとしていることを作ってもらわないといけないので…。今のうちに東宝さんにチーム編成を、しっかりやってくれよって言った方がいいですよ(笑)
妥協しすぎちゃうと、個性がなくなっちゃうので、ゴジラのプロモーションの時にみたいに全力で。すごくシンクレア君の作品はとがっていたので!
シ:ありがとうございます!
静:素晴らしかったですよ。編集もすごいし、色使いも、各ショットうまくやってるし。
最後妥協しすぎて、後悔しないように。チームのスタッフとコミュニケーション取って、仲良くなることが実写では大事なんじゃないかな。
シ:こういう絵を撮りたい!というのが『チェンジ』の中にいっぱいあるんですけど、なんだか統一感がでないかも、という予感もあって。個性を出しながらも、全体のトーンや統一感を出すバランスは、どのようにしたらいいと思いますか?
静:どこに統一感をもたせるか。色なのか、レイアウトなのか、編集なのか。役者さんの演技づくりなのか。一か所でもあれば、個性になるんじゃないかなと思いますね。
スマートフォンで撮るんですか?制限がある中で、やっていくとそれだけで個性もでるので、
「この機材でしかできない」ではなく「この機材だからできる」絵作りに特化してつくっていければ、個性はおのずと生まれてくるのではないかと思います。
シ:ありがとうございます!!
静:本当に楽しみです。シナリオが面白かったし。ゴジラのプロモーションも素晴らしかったので、完成したのをはやくみたいなと楽しみにしています。
シ:頑張ります!!
静:いい作品をいっぱいつくって、感動させてもらいたいな。映画もアニメーションもドラマも好きなので、新しい監督たちから自分にはない作品スタイルやシナリオ、音響などで尖がったものを見せてもらえると、自分も刺激になります。現場をつくっていくと大変なこともあると思いますが、負けずに個性を出して楽しいフィルムを見せてください。
シ:ありがとうございます!!貴重なお時間ありがとうございました。