ROAD TO CHANGE #1 シナリオライター篇 新井一樹氏
シンクレア・ウィリアム監督:シンクレア・ウィリアムです。高校1年生です、よろしくお願いいたします。(以下:シ)
新井一樹:シナリオ・センターの新井です。よろしくお願いいたします。シナリオ・センターってご存知でしょうか?(以下:新)
シ:はい。シナリオの勉強ができるところ、というイメージです。
新:まさしく、その通りでございます。(創設者の)新井一がライターさんを増やそう、脚本家を育てていかなきゃいけない、ということでシナリオ・センターをつくりまして、それ以来、いろんな人たちにシナリオ作りを教えています。今年は50周年なんですよ。
シ:おめでとうございます!ニュースで見ました。
新:本当に?ありがとうございます!
来年は51年目になりますけど、今、600人くらいの卒業生がプロのライター、シンクレア君の先輩として活躍しています。
僕はシナリオの技術をどうやったら、より多くの人に知ってもらえるかを考えていて。
シナリオを描いていて行き詰ってしまう人もいると思うので、このシナリオ・センターでは、きちんとその技術をお伝えしています。
シナリオ・センターでは、シナリオが書けるようになりたいという方向けの講座が主となりますが、小学生にもシナリオの技術をお伝えしています。小学校に行って、シナリオの出前授業をやったりとか。あとは、全然シナリオと関係なさそうな社会人のおじさんとか、そういう方々に「シナリオを描くと登場人物の数だけ考え方があるとわかるので、実は仕事にも役立つんだよ」というのをお伝えしています。
これは子どもさんにも共通していて、シナリオを書くということで「この人だったらこんなとするんじゃないかな」みたいに想像する楽しさを伝えていくこともやっています。
映画スタッフ:まさにいまシンクレア君が突き当たっている脚本の壁について、一番聞きたいことはなんですか?
シ:今悩んでいるのはキャラクターですね。主人公があまり目立っていないし、戦っている動機が伝わらないというのは、読んでいて思います。
なにかいいアドバイスなどいただけませんか?
新:まず、自分が読んでいて、足りないところに気付いているのは凄いことですよ。
自分の作品を客観的に見れているので、とても大切な視点だと思います。
僕もチェンジを読ませてもらって、確かに十乃介が主人公なのに(敵役の)林原の方が、格好よくなっちゃってるというか…キャラが立っちゃっている感じがあるとは思ってしまいましたね。
まず、十乃介を魅力的にするなら…、十乃介はどんな性格の人ですか?
シ:実はそこから悩んでいて…。脚本では、ちょっと冷静というか、席替えに興味がない、外側の人間のような感じなんです。席替えに思い入れがなく、依頼のためだけに動いているキャラクターになっている。それじゃちょっとまずいなと思っていて…
新:そうだね、クールな人間というのはあるとして。設定としては、探偵かぶれみたいな感じですか?
シ:そうです。
新:例えば、十乃介が探偵を気取っているわけですよね。帽子とサングラス被って、ココアシガレットくわえて(笑)。
十乃介が探偵として「俺はこういう美学を持っているんだ」というのが入ってくると、「貫通行動」といって、首尾一貫して行動する理由ができるんですね。それは「動機」にも近いんだけど。
ただ単に(依頼人の)早見のため、依頼のためだけじゃなくて、「おれは探偵としてこういうのを大切にしているんだ」というのが一か所でも出てくると、「だからこいつはいろんな嫌がらせをされながらも頑張れるんだ」というのが見えてくるかなと思います。
あとは、クールで構わないんだけど、クールさを出していても「探偵としてこうあるべき!」という目的をしっかりと体現したい、というのがあればキャラクターもちゃんと出てくるかな、と思います。
シ: すごく参考になります。ありがとうございます!
あと『チェンジ』の脚本を読んでいて、「説明セリフが多くてつまんねえなあ…」と思ってるんですが、なにかセリフがうまくなる練習法とかあれば、教えてください。
新:練習法か…。
セリフって基本的には、その登場人物だからこそ喋るものじゃなきゃいけないわけですよね。ということは、他の人でも言えちゃうようなセリフは良くない。「その人しかしゃべらない」っていうのが良いセリフの条件の一つなんですね。
だから、他の人でも言えるものだと、面白くないと思うんですよ。
じゃあ、誰でも言えちゃうセリフじゃないものをつくるためにどうするのか、というと、そこはやっぱり「キャラクター」なんですよね。
十乃介はすごいクールだから、スカしたセリフばかり言うけど、探偵仕事のことになるとぐっと熱い言葉を言うとか、そうすると十乃介のキャラも立ってくるだろうし。
林原はもうキャラが立ってるんだけど、そのキャラクターだからこそ言うセリフにしていったほうがいいよね。このドラマの中で、林原のセリフって結構際立っているけど、他の不良キャラも言いそうなセリフだとあまり面白くないと思う。だから、林原も今のところ「ただの不良」「ちょっと乱暴な奴」になっているので、キャラクターをもうちょっと決めていくと、こんなこと言うんじゃないかな、というセリフが出てくると思いますね。
それは他の登場人物にも言えるかな。
シ:ありがとうございます!ものすごく参考になったので、前より良くなると思います。
僕はタイトルをつけるセンスがゼロで、この『チェンジ』というタイトルも本当にこれでいいのかな、と思っていることがあるんですけど…
いいタイトルとはどういうものになるのでしょうか。
新:『チェンジ』いいタイトルだと思うよ?(笑)
自分的にはあまりよくないと思ってるの?
シ:すごい軽い感じで付けちゃったんですよ。
その時に好きだった作品が、だいたいカタカナ4文字だったので(笑)、ロゴにしたときにカタカナ4文字ってかっこいいなと思って。
そのあと家族から、『チェンジ』というアイデアをもらったので、とりあえずいまのところはそれにしておこうと。それが今も続いている…という感じなので、本当にあれでよかったのかと。
新:いいタイトルだとおもいますけどね!
タイトルに必要な要素って、「説明はしすぎないけど、そのドラマをイメージできる」ということかな、と思うんですね。なので、悪くないと思いますけどね。
あんまり副題をつけるのは…
シ:あ、それはやらないと思います。
新:副題はつけない方がいいと思います。タイトルをつけるときに、脚本家の方とかプロデューサーの方が何十個、何百個と候補を考えて、トーナメントみたいな感じで削っていって決まることもよくあると思うんだけども、
それをやってみて、やっぱり『チェンジ』でいけるんじゃないか、と思えばもっと自信を持てるだろうし。それもひとつの手かもしれないね。
シ:なるほど…ありがとうございます。
映画スタッフ:(収録した教室の)後ろの黒板にも書かれている…「ドラマとは変化である」について、ご説明いただいてもよろしいでしょうか?
新:まさに『チェンジ』ですね(笑)。創設者の新井一が「ドラマとは変化である」とよく言っていたのですが、ドラマの面白さってやっぱり「最初」と「最後」にあって。主人公の考え方が変わっているとか、成長しているとか、なにか変化がないとドラマって面白くないよね、という考え方を「ドラマとは変化である」と言っています。
例えば、野球とかで8-0でずっと続いている試合を9回までみていて、これ最後どうなるんだろう、とかあんまり思わないじゃないですか。8-7になって、9回裏に2アウト2塁3塁とかになると、これどうなるんだろう、ってすごく観たくなるじゃないですか。かつ、そこでヒットを打って二人が生還したら? 8-0の話か8-7で最後逆転する話だったら、逆転する話のほうが面白いですよね。そこは「変化」があるからですね。
ずっと同じ調子だと面白くないので、変化を作っていく。というのがドラマの肝になりますね。そこから「ドラマとは変化である」という言葉があるんですね。
ピンときたかな?(笑)
シ:野球のルールはよくわかっていないんですけど、なんとなくわかりました(笑)
新:初めの質問に戻ってくるけど、十乃介がどうありたいか、が出てこなくて、ただ巻き込まれているという風になっているので、十乃介の考え方があって、それがこのてんやわんやを経て変化する・成長する部分があると、ドラマとして、映画としての魅力が増すのではないか、と思います。
変化を作るためには、実は逆算して考えるのが良くて。構成を考えるときに、シナリオ・センターでは「起承転結」をお伝えしているんですけど、「転」がクライマックスのテーマを伝えるところなんです。
例えば「友情は大切だ」というテーマがあるとするじゃないですか。それを最後描こうと思ったら、「友情って大切だよね」というのは言っちゃったらダメなんですよ。理屈で説得させるのではなく、心に訴えないといけない。
なので、それを感じるようにどう伝えるかと言ったら、起承転結の「起」のところで、最後に伝えたいテーマと逆から始める。これをアンチテーゼというんですけど、「友情は大切だ」を伝えたいならば、「友情なんてクソだよな」と思っている主人公がいて、それが「承」の部分でいろんな人と会ったりとか、出来事を解決したりして、「友情ってやっぱ大切なんだな」というシーンを描いていく。そうなると変化が生まれるわけですね。
なので『チェンジ』のクライマックスは十乃介のどういう感情を描きたいのか、十乃介が気づいたり、感じたりすることを通して、シンクレア君が見ている人に伝えたいテーマは何か。それを考えて、逆から入っていくと、変化が起こるドラマになると思うんですね。テーマも別に「友情は大切だ」という道徳的なものじゃなくていいわけです。
描きたいものを理屈じゃなくて、エンタテインメントで伝えるには、起承転結の構成で、テーマの逆から入っていくっていうのをやってみるといいかも。そのためにはテーマをしっかりと考える必要が出てくるかな。最後こういうシーンを描きたい、とかね。
映画スタッフ:シンクレア君がいま考えているテーマは、どういうことなんでしょう?
シ:まだ考えていまして…。思いついていないんですよ。
新:最初企画書を読ませてもらったときに、すごく面白いと思ったんですよ。
シンプルだけど、中学とか高校の時に「あの子の隣がいいな」とか誰もが思っていることじゃないですか。そういうのを面白おかしく描く感じとか、中学生らしい誰でも共感するアイデアだから、すごい素材を持ってきたなと思ったんですよ。
なんでそもそも「席替え」になったの?
シ:たまたまという感じで…。
僕はアニメを見るのがすごく好きなんですが、アニメの中だと学校で突然バトルとかが起きても、次の日になると何事もなかったかのように進むじゃないですか。そういう軽い感じでアクションシーンが入ってくる、ぶっ飛んだ話を実写でもやりたいなと思っていて。でもそれだけじゃだめだなと思って、「席替え」という要素を入れてみました。
実際席替えって、それぞれの思惑があるので、それを絡めたらおもしろくなるんじゃないかな、と思ったんですよ。
新:なるほどね。急に乱闘シーンが始まるとか、この作品にもでているよね。イメージはすごく伝わってきます。そこがまず描きたいところだったんですね。
シ:なんか、ハリウッド映画やアクション映画で起きることが、学校とか身近な、すごくくだらない所で起きるっていうのをやりたかったんです。
新:そうか…なるほど。難しいね。
物語の最後には、十乃介のリアクションって特に無いんだよね?十乃介のこの席替えに対してのリアクションとかが出てくると、ちょっとテーマっぽいものが見えてくるのかな…。最初はクールで、席替えなんてくだらねえなあと思っていて、だけど探偵として依頼されたし、俺の美学はこうだし、という葛藤とか。任務としてやっていたんだけど、最後は感情がぐっと動く、みたいなドラマが入ってくると、もしかするとテーマが見えてくるかもしれないね。最後に十乃介がどんなことを思ったんだろう、という点が明確になってくると見えてきそうな気がしますね。
あと、テーマを考えていくのはすごく大事なんだけども、そのメッセージは自分がシナリオを書くときに、行く方向をはっきりさせてくれるものでもあるんですね。
テーマを見ている全員に伝えなきゃ、と思うと、説教ぽくなったり、説明くさくなる。「友情は大切だ」っていうテーマがあったら、シンクレア君くらいの年齢だったら今の友達を大切にしようと思うし、僕ぐらいの年齢だと昔からの友達を大切にしなきゃなと思うかもしれない。そう思ってもらうのもオッケーなんだけど、人によっては、全然違うワンシーンで刺さったりするわけじゃない?
だから、テーマは自分が迷わないための道しるべだと思ってもらって、それをゴリゴリ伝えようとすると説明っぽくなっちゃうので、そこだけ気を付けた方がいいかもしれないですね。
シ:ありがとうございます!テーマが大事な理由がはっきりわかりました。あと、20分の作品をかくときに意識したほうがいいことを教えていただきたいです。2時間の作品とは違う部分があると思うので…。
新:どうだろうね。2時間と20分の違い…。尺が違うとどこが変わるかというと、さっき言った起承転結の「承」なんですよ。
いろんな問題が主人公に降りかかって、それ乗り越えていくのが、「承」の役割なのね。
それが2時間だったら、大きな障害が5つぐらいある。20分だったら2つとか3つくらいでいいのかもしれない。そういう感じで考えるといいかもしれないですね。
あとは「起」のところで、さっき「アンチテーゼ」の話をしたと思うんだけど、それと同じく大事なことに「天地人」というのがあります。
「天」は時代とか、「地」が場所、「人」が人、つまり、どの時代のどんな場所で、どんな人が出ているのかを「起」で伝えなければいけなくて。特に大切なのは、短ければ短いほど「人」、つまり登場人物のキャラクターをパッとわからせることがとても大切です。
だから『チェンジ』の最初で、十乃介がココアシガレットを加えてサングラスをかけて、さらに「席替えなんてくだらねえ」とクールなキャラクター性も出ていて、そういうのはすごく大切なところですね。
そういう意味では『チェンジ』はすごく良いんじゃないかなと思いますし、さっき言ったキャラクターを明確にすると、セリフも良くなってくるんじゃないかと。
シ:ありがとうございます。あとはト書きについてもお伺いしたくて…。
脚本の書き方の本で、ハリウッド映画の脚本家が「こういう映画にはこんなおもしろいト書きがある」「こんなつまらないト書きはだめだ」みたいなことを書かれていたんですが、海外の脚本を例として出していたので、あんまりピンと来なくて…。
日本の作品で言ういいト書きって、どんなものなのでしょうか。
新:ト書きは、状況とか登場人物とか感情とか、目に見えないものを伝えていく意味でとても大切になってくるんです。
まずひとつは、目に見えない感情をいかに伝えるか、というのがト書きの役割であると思います。単に「○○した」というだけじゃなくて、ト書きから感情が伝わってくるかどうか。あと、ト書きは「丸太ん棒」のように書くっていうんですよ、新井一さんは。ドラマに必要なものは書かないでいいって、必要なものだけ書けって言うんです。「じゃあドラマに必要なものってなんなの?」と考えると、小道具とか竹刀とか出てくるものは描くけど、必要ないものは書かないっていうことになる。
やっぱり、登場人物がどういう気持ちでいるのかを、ト書きでわかるように書いていくと、書いている側もより見えるし、それを演じる役者さんにも伝わりやすくなるかな。
『チェンジ』のト書きはどちらかというと「動き」を書いていると思います。
シ:なるほど。
新:動作として書いている部分が多いので、そこに感情が伝わる仕草が入ってくるといいかなと思いますね。例えば、怒っているとしたら「顔が震えている」という表現だったり。
よくあるのは、テレビドラマで主人公が立っていて「大丈夫、気にすんなよ!」と言われながら握り拳がアップになったりするじゃない。「平気平気」って言っているけど、本当の感情は全然平気じゃねえな、ってわかるようなト書きになっている。
そういうト書きがかけるとよりいいかなと思いますね。
シ:ありがとうございます。ト書き頑張ってみます!
ほかに、『チェンジ』でつまんないなと思うところがあれば教えてください。またよかったなとか、これは残した方がいいというところかあれば教えてください。個人的にトリックがやっぱり上手くないって思っていて…。
新:僕はあんまり、トリックがださいとは思わなかったですけどね。
全体の流れとしては問題ないと思うんですが、やっぱり、登場人物それぞれのキャラが出しきれていないところがもったいないなあと感じます。
早見だったらもっと、お坊ちゃんで嫌な奴というキャラを出して、林原や生徒会長にもばんばん強く出るみたいな形だったり…。ひとつひとつのセリフに、そういう雰囲気があったらいいのかなという気がする。トリックはそんなに気にならなかったです。
あとは、名前ってすごく大切なんですよ。例えばヒロインの獅子神さんは、この文字だと、お高くとまった感じの雰囲気があるなあってなったり…。役同士で話す時には名前の響きも出てくるし、名前に登場人物のキャラクター性を入れておくと、書いているときにキャラがぶれにくい。『ドクターX』の主人公は「大門未知子」なわけです。あれが「小門未知子」だとキャラと違うじゃない(笑)。大門だから堂々としている感じとか、「失敗しないので」みたいな高飛車なセリフも受け入れられるけど、小門だと…みたいな。名前の印象は大切なんですよ(笑)。
しかもこれって、意図的に書き手が作れるんですよね。今から変えられるかわからないけど、意識して名前を考えてみてもいいかもしれないと思いました。
シ:ありがとうございます!
新:企画としておもしろいからね。セリフは確かに説明的ではあるかもしれないけど、テンポはすごくいいし、掛け合いになっていますから。変に長すぎないし、テンポはこのままキープした感じで、そこにキャラクターの色をいれていければ、良くなると思います。
シ: ずっと「なんで面白くないんだろう」と思っていたので、その理由がわかって良かったです。
新:そう言ってもらえると、役に立った感じがして嬉しいです(笑)。自信を持っていいと思うけど、のびしろがさらにある。のびしろだらけですよ。僕自身も、シナリオを教えに小学校や中学校に行く根底には、シンクレア君みたいな子たちにこれからの魅力的な映画を作っていってもらいたいっていう想いがあります。そして、映画をずっと好きでいてもらいたい。だんだん映画を見なくなっていったりするので。
シンクレア君が一生懸命シナリオを描いて、大人たちにいろんなことを言われながらそれでも頑張って、一本の短編とはいえ撮影までするわけじゃないですか。そこで「俺もちょっとやってみたいな」と思う同世代の子を一人でも増やしてもらいたいなと!日本の映画の将来はシンクレア君にかかっています!(笑)
…と、それは冗談だけども、楽しみながら、試行錯誤しながら、一つの作品にしてもらいたいなと思っております。
シ:ありがとうございます!がんばります!!めっちゃ面白い映画作りたいです!
新:期待していますよ!